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コラム
2026.10.20
Lab

AI時代に「かわいい」はなぜ大事なのか|旭川の秘密基地づくりの裏側から

「AI時代は『かわいい』が大事なのか」の文字と宗近翼のキャラクター

旭川で2026年11月20日、「あさひかわVASE 『やりたい』を叶えるみんなの秘密基地」がオープンします。近日、詳しい情報を公開する前に、この場所をつくるに至った考えの裏側を、この連載で共有していきます。1回目は、AI企業がキャラクターを使い始めた動きと、かわいいの心理学の研究をもとに、「かわいい」の話をします。

AI企業がキャラクターを付け始めた

2026年の秋、OpenAIやMetaなどのAI企業が、自社のAIにかわいらしいキャラクターを付け始めました。AIへの不安を和らげる狙いがあると報じられています。

OpenAIは9月29日、予定の調整や予約などをこなすAIエージェント「dots」を発表しました。色も形も違う、ぬいぐるみのようなキャラクターで、それぞれに名前があります(The San Francisco Standard、2026年9月29日)。

OpenAIが発表したAIエージェント「dots」のキャラクター4体。画像:OpenAI
OpenAIが発表したAIエージェント「dots」(画像:OpenAI)

The Wall Street Journal(2026年10月9日配信)は、Metaのアシスタントのマスコットや、Anthropicの開発者向けツールで親しまれているキャラクターにも触れ、AI企業が消費財のマスコット戦略を手本にしていると伝えています。

背景にあるのは、AIへの不安です。Pew Research Centerが2025年6月に米国の成人5,023人に行った調査では、AIが暮らしに増えることに「期待より不安が大きい」と答えた人が50%、「不安より期待が大きい」は10%でした。

日本では、生成AIを使ったことがある人は26.7%で、米国の68.8%、中国の81.2%を大きく下回っています(総務省「令和7年版 情報通信白書」)。使わない理由の上位は「自分の生活や業務に必要ない」「使い方がわからない」です。

かわいいの心理学:近づきたくなる気持ち

かわいいの心理学では、「かわいい」は、守りたいという気持ちよりも、近づきたい、そばに置きたいという気持ちと結びつく感情として整理されています。

かわいさを研究してきた入戸野宏さん(現・大阪大学)は、「かわいい」を、生物としての感情の層と、文化としての価値観の層に分けて考えています。調査では、かわいさは「世話をしたい」より「近づきたい」「そばに置いておきたい」と一貫して結びついていました(入戸野、2013)。

行動への効果を調べた実験もあります。広島大学で行われた実験では、子犬や子猫の写真を見たあとのほうが、細かい部品をつまむゲームの成績が上がり、作業も丁寧になりました(Nittono ほか、2012)。

2026年2月に公開された研究では、人が触れているモノは、触れていないモノよりかわいく見え、さらに触れている人もかわいく見えることが、日本とアメリカの397人の調査で確かめられています(大橋・入戸野、2026)。かわいさは見た目だけでなく、関係の中からも生まれる、という結果です。

かわいいの心理学に関する2012年・2013年・2026年の研究を並べた図
図2 「かわいい」についての3つの研究

デザインは、垣根を高くも低くもできる

デザインは、入る前の心理的な垣根を高くすることも、低くすることもできます。「可愛い」は、年齢や国籍を超えて垣根を下げるデザインだと考えています。

垣根は、低ければよいというものでもありません。ターゲットを絞りたい場合などは、あえて垣根を高くするのも一つの選び方です。来てほしい人がはっきりしているなら、かっちりした見た目や言葉のほうが合っていることもあります。

ビジネスだからかしこまった形、かっちりしないといけない、という時代ではないと思っています。BtoBではまだあまり一般的ではありませんが、「なぜその会社なのか」というブランド形成において、キャラクターも一つ重要な要素だと考えています。日本は、いろんなキャラクターがいて、ゆるキャラなどの文化も浸透しているので、親和性が高いはずです。

デザインによって垣根の高さが変わることを示した図
図1 デザインと「垣根」の高さ

秘密基地の入口を「かわいい」から考えている理由

秘密基地は、学生、社会人、経営者が同じ場所に来られることを目指しています。対象を絞る場所ではないので、垣根は低くするほうを選びました。見た目や言葉の入口も、「かっちり」ではなく「ちょっと可愛い」から考えています。

秘密基地では、若者・学生、社会人、経営者、自治体、金融機関の垣根を取り払い、「やりたいこと」「課題」「つながりたい人」を起点に関係が生まれる場所にしたいと考えています。立場がばらばらの人に同じ場所へ来てもらうには、最初の一歩の垣根を低くする必要があります。NextValueのホームページにも、僕をもとにしたキャラクターを置いています。

秘密基地のどこを、どんなふうに可愛くするのかは、乞うご期待です。

「かわいくすれば人が集まる」という話ではない

かわいさは入口を開くものであって、場の中身や関係の代わりにはなりません。

Pew Research Centerの同じ調査では、AIが「人と意味のある関係を築く力」を悪くすると答えた人が50%、良くすると答えた人は5%でした。先ほどの2026年の研究が示すように、かわいさは関係の中からも生まれます。

僕は、皆さんにAIを使えるようになってほしいと思っています。その上で、人がやらなくてもいいことは全部AIに任せて、人と過ごす時間や、本当はやりたかったことにどんどんチャレンジしてほしい。秘密基地で本当にやりたいのは、そのための場所をつくることです。かわいさは、AIとの最初の一歩の垣根を下げるためのものだと考えています。

次回

次回は、秘密基地の「お金の払い方」について書きます。

参考文献

著者:宗近翼(NextValue(株) 代表取締役)。慶應義塾大学経済学部でAIと行動経済学を学び、船井総研で中小・中堅企業の組織・採用を支援。2024年に旭川へ移住し、2026年にNextValue(株)を設立。旭川で「あさひかわVASE 『やりたい』を叶えるみんなの秘密基地」を準備中